NEWS

転倒予防の合言葉は『ぬかづけ』!?(安全ミニ通信281号-2)

更新日: 安全ミニ通信

あなたの職場にも潜む「見えない危険」

「まさか、自分が転倒するなんて」。そう思っていませんか? 職場で起こる事故と聞くと、機械に巻き込まれる、高所から墜落するといった重大な災害を想像しがちです。しかし、実は最も身近で、最も発生件数が多い労働災害が「転倒」であることをご存知でしょうか。厚生労働省の発表によると、令和7年の労働災害発生状況において、休業4日以上の死傷災害の中で「転倒」が全体の約27.5%を占め、最も多い災害となっています 。さらに、転倒による休業期間は長期にわたる傾向があり、一度転倒すれば、本人だけでなく家族の生活や仕事の継続にも深刻な影響を及ぼすことは避けられません。
「ただの転倒」と軽視されがちなこの事故は、あなたの生活やキャリアを突然一変させてしまう可能性を秘めています。特に、急いでいる時、疲れている時、あるいは「いつもの場所だから大丈夫」という油断が、思わぬ事故へとつながることも少なくありません。本コラムでは、日本転倒予防学会が提唱する「ぬかづけ」という合言葉を紐解きながら、職場の転倒リスクを具体的に認識し、今日から実践できる予防策をご紹介します。 


印刷は下記のPDFをご利用下さい。

  なぜ「転倒」は減らないのか

転倒災害が労働災害全体の約4分の1以上を占める現状は、単なる不注意では片付けられない構造的な問題を示唆しています。その背景には、いくつかの要因が考えられます。
まず、労働者の高齢化が挙げられます。経験豊富なベテラン社員が増える一方で、加齢に伴う身体機能の低下(筋力、バランス能力、視力など)は、転倒リスクを高める一因となります。また、若年層に比べて転倒時の骨折などの重症化リスクも高く、一度の転倒がそのまま退職につながるケースも少なくありません。
次に、作業環境の変化です。物流倉庫や工場、店舗など、多くの職場で作業の効率化が求められ、限られたスペースでの作業や、頻繁な移動、重量物の運搬などが日常的に行われています。このような状況下では、わずかな障害物や床面の変化が大きな危険となり得ます。
そして最も重要なのは、転倒が「不注意」だけでなく、「環境」と「行動」のミスマッチによって引き起こされるという認識の欠如です。「急いでいたから」「足元が見えなかったから」といった個人の責任に帰結しがちですが、実際には、滑りやすい床、散乱した物、不適切な履物、不十分な照明など、環境側の要因が大きく影響しています。これらの要因が、私たちの「うっかり」と結びつくことで、転倒災害は発生するのです。

 

  転倒予防の合言葉「ぬかづけ」

日本転倒予防学会が提唱する「ぬかづけ」は、転倒しやすい場所の頭文字を取った、覚えやすく実践的な合言葉です。この「ぬかづけ」が示す場所と、それぞれの注意点、そして具体的な対策を説明します。

 

「ぬ」:ぬれた場所

「ぬ」は、「ぬれた場所」を指します。水や油、洗剤などが床にこぼれた場所は、非常に滑りやすく、転倒の危険性が高まります。特に、厨房、トイレ、工場内の機械周りなど、水や油を使用する場所では常に注意が必要です。
【事例】
厨房で水をこぼしたまま放置し、急いで通りかかった従業員が滑って転倒。頭部を強打し、救急車で病院に運ばれた。
【対策】
 ・床面の水や油は、発見次第すぐに拭き取ることを徹底しましょう。「後で誰かがやるだろう」「急いでいるから」といった安易な考えが、重大な事故につながります。
 ・水回りには吸水性の高いマットを敷く、滑り止め加工を施すなどの物理的な対策も有効です。
 ・
定期的な清掃と点検を行い、常に床面を乾燥した状態に保つよう心がけましょう。

「か」:かいだん

「か」は、「かいだん」を指します。階段での転倒は、段差があるため、平坦な場所での転倒よりも重症化しやすい傾向にあります。特に、手すりのない階段、照明が暗い階段、荷物を運搬中の階段では、細心の注意が必要です
【事例】荷物を両手に抱えて階段を上っていた従業員が、足元が見えずに踏み外し、転落。骨折と打撲の重傷を負った。
【対策】
 ・手すりがあれば必ず手すりを使用し、一段ずつ確実に昇降することを徹底しましょう。急いで駆け上がったり、駆け下りたりすることは絶対に避けましょう。
 ・荷物を運搬する際は、片手で手すりを持てるように工夫するか、複数人で運ぶ、台車を利用するなど、無理のない方法を選びましょう。
 ・階段でのスマートフォン操作など、「ながら行動」は厳禁です。常に足元と周囲に意識を集中させましょう。
 ・階段の段差や踏み面に異常がないか、定期的に点検することも重要です。

「づけ」:かたづけられていないところ 

「づけ」は、「かたづけられていないところ」を指します。通路や作業スペースに放置された物、乱雑な配線、段差のあるパレットなどは、つまずきや転倒の原因となります。特に、見慣れた場所だからこそ、危険を認識しづらいという側面もあります
【事例】通路に置かれた段ボール箱につまずき、転倒。転倒時に、着いた手を捻挫した。
【対策】
 ・整理整頓を徹底し、通路や作業スペースには物を置かないことを基本としましょう。使用しない物は元の場所に戻し、常に整頓された状態を保つことが重要です。
 ・配線は、専用のカバーで保護したり、壁に固定したりするなど、つまずきにくいように工夫しましょう。
 ・パレットや台車などは、使用しない時は指定の場所に片付け、通路を塞がないようにしましょう。
 ・「5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」を職場全体で推進し、安全な環境づくりを習慣化することが大切です。

 

  転倒災害を防ぐための具体的なアクション

「ぬかづけ」の合言葉を理解した上で、さらに一歩踏み込んだ具体的なアクションを日々の業務に取り入れることで、転倒災害のリスクを大幅に低減できます
・KY(危険予知)活動の徹底
 作業を開始する前に、その日の作業内容や環境に潜む「ぬかづけ」の危険を予測し、対策を話し合う時間を設けましょう。特に、入社間もないスタッフなど新しい環境で働く方には、積極的に危険箇所を共有し、注意喚起を行うことが重要です。
・適切な履物の着用
 滑りにくい靴底の作業靴を着用しましょう。特に、水や油を扱う場所では、耐滑性の高い安全靴を選ぶことが不可欠です。また、靴紐はしっかりと結び、脱げやすいサンダルやヒールの高い靴での作業は避けましょう。
・「ながら行動」の禁止
 スマートフォンを見ながら歩く、急いでいるからと周囲を確認せずに移動するなど、「ながら行動」は転倒リスクを飛躍的に高めます。移動中は周囲に意識を集中し、安全確認を怠らないようにしましょう。
・定期的な点検と改善
 職場内の「ぬかづけ」ポイントを定期的に点検し、危険箇所を特定しましょう。滑りやすい床、破損した階段、散乱しやすい場所などをリストアップし、改善計画を立てて実行することが重要です。
・休憩と体調管理
 疲労や体調不良は、集中力の低下や判断力の鈍化を招き、転倒リスクを高めます。適度な休憩を取り、体調が優れない場合は無理をせず、周囲に相談しましょう。

 

  安全は「気づき」と「行動」から

転倒災害は、決して他人事ではありません。あなたの職場にも、そしてあなた自身の行動の中にも、「ぬかづけ」の危険は潜んでいます。しかし、その危険は、私たちが「気づき」、そして「行動」することで、確実に防ぐことができます
「ぬれた場所」「かいだん」「かたづけられていないところ」。この3つのキーワードを常に意識し、日々の業務の中で安全確認を習慣化すること。そして、危険を発見したらすぐに改善する、あるいは周囲に知らせる行動が、あなた自身と大切な仲間を守る盾となります。
安全は、誰か一人が守るものではなく、職場にいる全員で築き上げるものです。今日から「ぬかづけ」を合言葉に、一人ひとりが安全意識を高め、無事故で笑顔あふれる職場を目指しましょう。あなたの安全な一日が、会社の、そして社会全体の安全につながります。今日も一日、ご安全に!

※参照
 令和7年の労働災害発生状況を公表(厚生労働省)

【関連記事】
 筋力低下による転倒を予防しよう!(安全ミニ通信253号)
 転倒しやすい場所・状況(安全ミニ通信266号)
 転倒を招く3つの要因(安全ミニ通信309号)

求職者の方、企業の採用担当の方は下記メニューをご確認ください。

当社サービスに関するご相談・ご依頼がございましたら
お電話またはお問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせ下さい。